《果てしない行方 ALL OVER》










 「……われ思う、ゆえにわれあり」 ― デカルト










  荒れた大地、廃墟だけが並ぶ死者の街。

 そう呼ばれる場所は少なくない、ここもその代表的な街の一つ。
 人口はおよそ百人にも満たず、人々はわずかに残った食料の奪い合いや、ネズミや小さな動物を追っては喜ぶ。そういった、むなしい生活をしなければならない環境。

人々――と言っても、この崩れた街には男しかいない。
繁殖できずに、いつかは滅んでしまうのが当然の話しなのだが、彼らは銃を持って最期の最期まで生き残るという抵抗を続けている。
同じ人間同士で殺し合い、小さな餌を取り合い、一方的な破滅へと自分たちを追い込んでいる事に気付きさえしない……。
 そもそも、なぜ荒れ果てた絶望的な世界になってしまったのかというと、遠い過去、歴史の彼方で核戦争がおこった。誰がどうして起こしたかなんてことはわからない。
いや、わからないのではない――誰も知ろうとせず、その行動を起こした決定的な書物やデータなど、過去の痕跡と言えるものがどこにもないのだ。
 しかし、唯一過去の「痕跡らしい」と呼べるものが二つある。この廃墟と化した町並みと、地平線まで永遠と伸びる死の荒野――。人も自然も爆発の中で死んだのだ。
 この時代に、「待て、話しをすれば解る。」などという言葉を発する者はいない、考える前に動き、本能のままに生きているだけなのだ。
 無法なフィールドに立ち、弱肉強食という円のなかで死に抗いながら、弱者を活殺自在に屍へ変えてやり、自我の存在維持だけを達成する。

 孤立無援の街でサバイバルをしながらも、
 人々は今日も殺し合い、餌を取り合う………


 生きる為に。






 目覚めは朝日とともに、まだ少し冷たい空気を感じながら大きく息を吸い、冷気が肺から毛細血管を通り、それから全身へと伝えて神経に刺激を与える。
毎日同じ布切れの服を着たまま体をゆっくりと起こす。
日に日に酷くなる空腹をこらえながら、必ず銃を手に持ってボロボロのコンクリートの隙間から外を覗く。
 街は死んでいる。
 地面もビルも、荒野の彼方まで全てがオード色のグラデーションで彩られ、歴史のどこかで落とされた核戦争のあとが日常となり、廃墟とガレキで街は覆いつくされ、残された者達の生き残りをかけた懸命な戦いが、休む間もなく常に展開されている。
 この街で自分は一番年下だと父親から聞かされている。だから最後に死ぬのは自分だということも知っている。死の瞬間がいつになるかなんてまだ先の話しだが、今まで見てきた他人の死と、いつしか降り掛かる自分の死の違いを思うと、この修羅場という廃墟の街で生きながら、死などもう誰にも差がないと思うのだ。
結局最後はみな死んでしまう。この街には男しかいない、暴力の好きな男だけだ。必ず滅びる終末を迎える。
 その――死について考えていたときだ。
 彼が外を覗き見ているすきを見つけた敵が、正面のビルから彼目がけて発砲してきた。
 銃弾は袖をかすったため怪我は無かったが、一発の銃声を聞きつけた仲間が直ぐさま武器を手に猫の様に忍び歩く。
 もう、陽光の熱くなるころだった。



 荒野の熱くて砂混じりの風と、熱い太陽の日差しが今日も襲い来る。



 その場から離れて、ドアが壊れ倒れている一階の裏口から外へ出る。
朝から銃声の鳴り響く廃墟のビルの間で、古く表面の痛んだライフルに、一発撃っては、また次の弾丸を装填しなければならない……。
慣れた手つきで作業しながら、冷静に焦る事無く手順を踏む。
荒々しく銃弾が飛び交うが、そんな状況でもゆっくりと装填の作業を終わらせる。
 上の階から顔を出す大人の仲間へと大きく手を振り合図を送る。
 おおよそ五十メートル先には、仲間がいつも『敵』と呼んでいる人達が集まっているビルがある。
 物陰に隠れる敵を見た仲間が、崩れた穴の間から貴重なロケット砲を放つ。
 ロケット弾が敵陣のビルへ当たった爆音を確かめると、青年はビルの影からライフルの銃口の先をひょこっと出した。
 敵陣のビルから顔を出す間抜けな頭に、青年は弾丸を一発お見舞いする。ライフル弾の反動が肩に一瞬押し寄せるが、慣れた足取りで違う射撃ポイントにすぐ移動する。
 敵に命中したかどうかは別にして、青年は敵の翻弄役で、主役は屋上にいる彼の父である。この街では数少ない狙撃手の腕を持ち、名を誇っている父だ。
 青年のいた場所を数秒間だけ、機関銃の弾丸が強襲してきたが、撃ってきた敵は銃声を鳴らせた代償として逆に位置を知られ、もう一発ロケット弾の攻撃を浴びた。その爆音の後、戦場には似合わない静寂が流れた……。
 その間に、仲間がビルの上から声を出さずに『指信号』で青年へメッセージを送る。
 青年が見たのは、敵陣を指差してから人差し指と中指だけを立て、それから親指だけを立てて首を真っ二つにする様に腕を引いた。
 これは敵を二人倒した。という信号だ。
 その信号を確認すると、青年は親指を力強く立てて、『グッドサイン』を出してからすぐに走り出した。
 しかしその時、
 信号を送ってくれた仲間の階へ敵の放った榴弾が着弾、灰色の爆風によって一人の仲間が吹き飛ばされ、ビルの壁に激しくぶつかった音がすると、青年は即座にライフルを投げ出して、落ちてくる彼を救いに飛び込む。
 間一髪で仲間を両腕で力一杯受け止め、ガレキのゴタゴタした地面に二人とも倒れた。
肘を強くうったが、青年はすぐにライフルを片手に立ち上がる。その横で、助けてあげた仲間が腰を押さえながら安堵の息とともに起き上がる。
「ルビア、いたた。すまねーな……あと少しで死んでるところだったぜ。」
「大丈夫か、死んでないだけマシだったな。」
「まあな。」
 二人はすぐに会話をやめて、自分の持ち場へと戻る。
 ルビア、と呼ばれた青年は新しい射撃ポイントへ移った。さっきの場所とは反対?、だ。ライフルに残ってる薬莢を排出してから素早く新しい弾丸を装填し、目標を定めようと銃口を敵陣に向けたとき、彼は気付いてしまった。
 敵もこっちを丁度狙っている!
 相手の居場所はビルの六階、こっちは地面――明らかに自分が的である。
 もう引き金に指がかかり狙いを定められているはず。一騎打ちを挑むには無謀な瞬間だった。
 死ねば貧しい生活も苦しい空腹からも脱出できるが、それでは今まで敵を殺して戦ってきた意味が無い。
 ルビアは止まらなかった。
そのまま射撃体勢に入り、敵を捕捉……だが、もう勝敗は見えていた。敵の方が一歩行動が早かったのだから……。
 汗したたれる中で、指がガタガタと震えだす………
 もう死んでいるような環境でも、さらに死ぬという実感が湧き出る。
 いざ『死ぬ』となると、神経が敏感になって狂いそうな緊張感に襲われる。
 しかし、ルビアの恐怖を割ったのは敵の銃弾ではなかった。
 どこか近くでひときわ大きい銃声が一発なった。
 不意に銃声の響いた末で、
 死人が出たのは敵だった。ルビアの頭上から一つの薬莢が落ちてくるとすかさずキャッチし、嗅覚と視覚で確認する。
 火薬の匂い、通常のライフル弾より一回り大きいサイズの薬莢……さっきの銃声は、親父の一発。
 危機一髪を救ってくれた感謝を胸に、朝の戦いは終わった……。



     ***



 残り少ない食料を確保している保管庫の中は広くて真っ暗だ。
その場を照らす小さい手持ち電燈の電池のエネルギーは、少しずつ消耗してきている。
敵を殺し手に入れたわずかな食料を保管庫にいれ、太陽発電を動力とする冷蔵庫が動き出した。
「これでまた数日はもちますね。」
 一人の若い男が、隣の電燈を持つ中年ぐらいの男へ投げかけた。
「俺よりも息子に言ってやれ。このガレキの世界で一番幼いんだからな。」
「わかったよ、ボス…。」
 ボス。そう呼ばれた男こそ、ルビアの父『ライト・アンティークス』だ。
 棘の様にのびた短めのヒゲに、ほこりと塵で汚れた赤いスカーフが目印で、みなから『ヒゲボス』などと呼ばれる事もある。
 保管庫の扉を閉めると二人は暗い廊下を歩き、階段をのぼってビルの一階へと出た。砂の積もった床は誰も掃除せず、永遠と押し寄せる風に乗る砂塵をバラまく自然の光景を感じさせるだけだ。
次に二人は二階、それから三階へとのぼると、二人の仲間が待っていた。
「ボス、あいつらの武器トってきたぞ。」
 頭を坊主にした筋肉質の黒人が、崩れかけたコンクリートの影で休んでいる。彼の前には、朝の戦闘で全滅させた敵から奪った銃器が並んでいる。
「ご苦労だなディン、いつでも使えるようにしておいてくれよ。」
「ああ、もちろんだ。」
 ディンの前を通り過ぎると、次に見張り役のビショップのところへライトは向かった。ライトの後ろについてきた男はディンと一緒に銃の手入れを始めている。
「ビショップ、変わったことはあるか?」
「特に無いですよ。ただ今日は雲が普段より厚いかと思うだけで、雨が降るかもしれない……。」
 二人は窓ガラスの無い大きな窓から空を仰ぐ。見慣れない、グングンと空高くまで伸びる雲を見た。
「雨が降ったら、久々のごちそうが飲めるな。」
「そうですね。バケツの準備でもしましょうか?」
「早速だな!」
ビショップは二階にあるバケツを取りに行った。ライトはそのまま空を眺め続け、いつか平和とやらが来るのを待ち望む思いでぼーっと立っている。
 自分たちが生きながら死んでいるような生活と殺し合いのさなかで、空というのは、いつも気まぐれに変化しているように見える。
ライトはそんな自然界を眺め、風向きを肌で感じるとため息が出てならない。こんな人生から早く解放されたいと願う。しかし、息子を一人前の人として育てる義務、そして、三人の仲間を支え、共に生きていく苦し紛れの努力を思うと、ため息を殺して堂々と胸を張るのだ。
「挫折はまだ早い」と言い聞かせる。共に生きる仲間と、息子のために。
 一人でそんなことを考えているときだった。後ろからライトを呼ぶ声が聞こえた。聞き慣れた息子の声だ。
「親父、見張り役はビショップじゃないの?」
「ルビアか、ビショップなら雨が降りそうだからってバケツを取りに行ったぞ。」
「雨か、久々に水――飲めるかな?」
 ルビアは焦げ茶色の髪を風になびかせながら、ライトの横に並んだ。二人は同じ空を眺める。
「さあな、汚染してなければ飲める、それまで我慢だ。」
「もう少し期待させてくれたっていいのに、親父ってこういうときにつまんないこと言うよな。」
「バカやろう、核汚染した雲や地下水がそう簡単にはもとに戻らないんだ。あの雲が雨を降らせたからって、絶対飲めるとは限らねえ。」
 ライトの厳しい目線は、ルビアではなく雲に向けられている。ルビアがそんな父親の姿を横から見ると、幼い頃にもこんな場面があった気がする。と、しみじみデジャヴを感じてしまう。
だが二人とも時を経て、今では肩を並べるぐらいだ。そしてこれから、ルビアはもっと背が高くなり若い力のある青年に、ライトは段々と背が縮んで初老の時期へさしかかる。
長い未来に生きて若々しくなる人間と、刻々と人生の死へ近づく人間。
生きていく上での当たり前なこと、行雲流水とも言い換えられる日々の出来事は、年月を経てばその有様がよくわかる。
二人にとって、空を眺めることも行雲流水なのかもしれない。
 しばしば時間が立つ頃、ライトは無言のまま背中を向けた。
「親父、どこ行くんだよ?」
 靴が床をするようにライトは止まった。その時のライトは親ではなく、仲間のボスとしての背中を見せていた。威厳高い彼に対し、圧迫感のある雰囲気へとその場は変わった。
「敵の場所にまだなにかないか探るだけだ、お前もついてこい。」
「了解さ、ボス。」
ルビアが彼の背中を追いながら、二人はビルを出て行った。



     ***



 敵地の廃墟のビルへと潜入すると、ほのかに火薬の匂いに混じりながら人間の血の匂いがした。死体はそのまま放置してあり、ルビアは目を隠しながらその後を通る。
「なんだお前、死人がきらいか?」
「いや、ただその……あんまり、見たくないだけ。」
「そうか。」
 敵の持っていた銃器は全て奪い、トるものは全てトったと思っていた矢先だ。  死体の横に錆びた金庫が置いてある。熱い空気に漂う肉と血の匂いが鼻を突くが、ライトは死体をどかしてその金庫へ手を伸ばした。そのとたんに、死人だと思っていた肉体が蘇ったのか、ライトの腕をつかんだ。
「やめろ…金庫をあさるな……。見ては、いけない。」
「なにを見ちゃいけないんだ?」
弱々しい声をあげる男は、銃弾を腹に食らっていたらしく、身動きするせいで出血が止まらない。とっさにルビアが応急処置のために、少ない薬や道具を持ってこようと思い、戻る一歩を踏み出したが、ライトはルビアを戻すまいとにらんだ。
「とにかく。開けるな……。」
その一言だけ残して、しぶしぶ男は本当に死んだ。
 ルビアはその、名前も知らない死人をずっと見つめている。
 死ぬとは、どういう気分なのだろうか。男は最後まで「開けるな」と言って、役目を終えた虫のように死んでしまった。そんな『死に方』でいいのだろうか?
 この戦場では生きるか死ぬかの選択肢しかない。だが、本当にそうなのだろうか?
ルビアの中でいろいろな『生き方』が巡り、たとえこの街でも殺し以外に生きる方法はないのかと哀れに我を問う。
「親父……。誰も殺さずに、俺たちは生きていけないのか?」
 錆びかけの金庫の鍵を解除しようとしているライトの手が止まった。
「ルビア。生きるための道具や食い物を奪い合うためなら――――ココで殺しは必要になる。」
「だけど、どうしてこんな……。どうしてすぐに殺し合いなんて始めなきゃいけないんだ!」
 解らない答えへの執着が爆発し、ルビアは怒りを吐いた。
「そういうお前も、敵に狙われたら銃を構えるだろ。」
「それは……そうだけど」
「お前はまだ人のこと言える立場じゃない。生意気なことを言うな。」
 ライトは何一つ態度を崩さず、ルビアと話し合う。
 ルビアは何か言いたい口を閉め、一歩ずつゆっくり下がっていく。
「ルビア、お前はなにがなんでも生きなきゃならない存在だ。俺にとっちゃかけがえの無い息子なんだ………。お前を失わせる奴がいたら、俺は意地でもそいつを殺してやる。」
 父親の低い念のこもった言葉に、ルビアは言い返す言葉を失った。
 ただ背中を向け、仲間のいるビルへと戻るだけだった。
 


階段をくだる途中で、ふと銃の使い方を考えてみた。
 生きるために銃を使うのか、殺すために銃を使うのか。
 必要な物を奪うために弾丸を放つのか、邪魔な命を散らすために弾丸を放つのか。
 きっと、答えは両方なのかもしれない。
 目の前に起こる物事全てに一生懸命で、我を忘れて撃ってしまった銃弾に罪は無いのか。いや、罪などと言う言葉すら、ここには無いのかもしれない。
 銃口を向けられれば銃口を向き返すのか。
 本当に…銃など必要なのだろうか。
 誰もが殺し合うようになってしまったこの街で、いつか争いの無い日が来ることを望みたい。



 ――かつて平らだったアスファルトは歪み、塵とガレキの積もった道路へ出ると、太陽の熱い日差しは黒雲によってさえぎられている。その風景を見てからやっと、ルビアはビルから外へ出たと認識した。
――なぜだか足が止まった。ビルの間の道路にいると敵に狙われやすいなんてことはよく知っている。でも、立ち止まった。
 黒雲を見上げ想う。もしあの雲まで飛んでいけたら、苦しみが溜まり込んだ色をしている雲を切り裂いて、自由な光を見つけてみたい。毎日うっとうしいはずの熱すぎる陽光が、不思議と欲しくなる。
しかし、不可能なことを考えても時間の無駄である。
幻を頭の中で描いては諦め、死と血と、弾薬の匂いが漂う廃墟の街をまた歩き出すのだった。歩きながら、ルビアはまた考え始める。
 この生活はもとから皆束縛された状態であり、それは永遠と続く。人がいなくなってもここはなにも変わらず、時の経過とともに、自然の風によって建物や地面が風化していくだけだろう。
 よくよく考えれば、未来でこの街に生き残る《全員》が死んでしまうと決まっているのなら、なぜ面倒な殺し合いなどしているのだろうか……。
 もし誰かに聞いてみれば、答えはきっとこうだろう、
『少しでも長く生きるために、敵を殺して食料を奪う。』
 他にも答えはあるだろうけど、それはこうかもしれない、
『死にたくない。』
 単純な答えかもしれないが本能的で最もだと思う。
ルビアはどちらかと言うと後者だ。
 全ての命が平等だと思うルビアは、ライトに『かけがえの無い息子』と言われても、この街じゃそんな実感はわいてこない。なぜなら結局は死ぬからだ――。誰がどう死んでもおかしくはない状況なのだ。
 人間自身がいつかは死んでしまうのだが、廃墟と荒野の世界では親子だろうがなんであろうがおかまい無しに死んでいく。大声出してわめいても、誰かにすがっても助けてはくれない。来るものは銃弾と死のみである。
 親子とは簡単に、『育てられる子供』と、『育てる親』という関係で成り立っているのであれば、親は子供をそそくさと捨ててしまうはず。だからライトとはそんな関係でないことは解っている。だが自分が本当にかけがえのない息子なら、銃まで持たせて危険な戦いはさせず、どこかへ避難させてくれるはずだ。
 この世界では許されない贅沢な考えを出したが、どうなにを思っても、人も世界も歴史もなに一つ変わらない。ただ自分が自己中心的な思考にかたよるだけだ。
 自分の愚かさを理解し、馬鹿な発想はやめて、やっと仲間のいるビルへと戻った。
 仲間の三人はずっと仕事を続けている。その仕事はライトが与えたものなのかもしれないし、自分自身で探して見つけた仕事なのかもしれない。
その光景を見て、『自分はなにをしているんだろうか……』とため息をついた。疲れも一緒に体へ出てきたせいか、ルビアは座り込んで頭をおさえる。
そこへビショップが心配そうな表情で近寄ってきた。
「ルビア君、大丈夫かい?」
ビショップの優しい言葉に返事もせず、黙って頭をおさえているだけだった。
「あのヒゲボスがこき使いすぎたんじゃないのか?」
銃を分解しながら、デビットはライトのいない場所で彼を中傷する発言をすると、むくりとルビアが頭をあげた。
「親父はそんなヒドいやつじゃない……。ちょっと厳しいだけだ。」
二人はルビアの疲れきっている様子から重みを感じ、彼をそっとしておいたほうがいいと考え、何も言わないまま各自の仕事に戻った。
 唯一そこにいながら何も言わなかったディンは、やはり黙ったまま仕事をこなし、何があろうと焦らず喋ろうともしない。彼が喋るときはとっさの事故や思わぬ出来事のおこったときだけだ。そういう時に限って、ライト以上に仲間を先導することもある。影のリーダー的存在だ。
 ビショップはルビアにとって面倒見のいい優しいお兄さんだ。つねに周りの気配などに警戒しているから、もっぱら見張り番は彼の仕事だ。それと食料の確保をするのも彼の仕事である。
ただし射撃の腕前はワーストワンのため、ライトから弾丸の無駄使いをするなと注意をしばしば受けることが多々ある。
 ライトを中傷したデビットは、冗談混じりの会話を楽しむお気楽者だ。銃撃戦となれば敵を倒すことだけを考える無鉄砲な性格だが、会話を楽しませるのも彼の得意技だ。
そして仲間が敵によって傷つくと、誰よりも怒りをあらわにするのは彼だけだ。それだけ熱のある感情を持っている。ルビアの友達のような存在だ。  頭を抱えるルビアにとって、父親もこの三人もみな仲間である。仲間である以上は協力しなければならない。一人勝手な行動やガキみたいなわがままは許されない。
 自分に反省しながらまだ顔を下に向け、今度は目を閉ざした。
 ……こく、こく、と、頭が落ちつつ全身の力が抜け、かすかな感覚だけが機能していく。
 まわりの音を聞きながら、静かに呼吸だけする。
 デビットが銃を分解し掃除する金属音、ビルの中へ入り込む強い風の音、遠くからかすかに聞こえる銃声。……銃声。…………また、銃声。
――――。






 まだ父親の膝よりも半分ぐらいの頃、家族は三人だった。
 父と母、そして子供。今と生活はたいして変わらないが、母親のいる家族は今とは全く違う。母はかすかに覚えている緑色の植物というものの話しをしてくれた。それはこの大地や街のいたるところにあったという。他にも、空を飛ぶ鳥という生き物や、ありとあらゆる動物の話しもしてくれた。
母の話しをもとに、夢を見ては空想にふけったりするのが大好きだった。
荒野を見つめては植物のおいしげる大地を想像してみたり、空を見ては、鳥はどんな姿をした生き物なのだろうと考えたり、毎日そうやってすごせると思い込んでいた。
 だが夢と離れた現実は違う。違いを知れば苦痛ばかりを感じる。
 殺戮や恐怖に怯えながら生きなければならない。または餓えに苦しまなくてはならない。
 こんな『現実』という鳥籠の中で火花を散らし生き続けてきた人々は、安らぎを忘れてしまったようだ。
 それでも、母といる時間だけは自分にとってなによりも安らぎだった。父もそうだった。
現実と夢のあいだを行き来していた少年期。夢で笑ったりはしゃいだりして、現実で泣いたりビクビクと怖がっていた。
 普段よりも寒気のするある朝、母はいくら体をゆさぶっても起きてくれなかった。父が母へ近寄ると、やせている母の体を重たそうに抱きかかえたまま、どこかへ行ってしまった。
その朝から、二度と母を見ることも声を聞くことも無かった。
 父は、「母が死んだ。」としか教えてくれず、その場の現実を受け入れられない息子がいくらわめいても、怒ることも説教もしなかった。その時の父はいつもより弱々しく、母においていかれてしまった息子と一緒に泣いてくれた。それ以来、父は涙を見せた事が無い――。
 それから少しずつ解っていったことが、どんなに強い大人でも大切な誰かを失えば悲しみに濡れるという事実だ。大人は皆強く、殺しもなんでもできてしまう恐ろしいぐらい強大な存在だと思っていたが、本当は違う。
 その証として、笑ったり泣いたり、怒ったり喜んだりなどと言う感情を持っている。
 母の死から、人は誰でも死ぬことを知った。
 生まれる、死ぬ、と言う一方通行の当然は父にも自分にもあり、人間以外にも全ての万物に共通しておこるのだということも解った。
 自分が成長するにつれて、父から銃を持たされ仲間とともに戦い。生き抜くための術や教訓を教わった。
 この世界で生きるとは、つまり奪い合いだと。
無秩序の教訓を教えられても、違和感がわいてくるだけだった。
人はいつか必ず死んでしまう、奪い合っても意味は無い。
 この街でサバイバルしている父や仲間、他人の殺しに意味があるのかどうか解らなくなる。それならば、せめて自分だけの正しいルールを持つことにした、
『この世の命は全て平等』というルールだ。
 誰にも邪魔されない、自分だけが納得できる決まり。
 「これこそが正しいんだ。」そう思える秩序――。
 平等という平和な天秤の上で協力し合い、本当の秩序を築き社会を組み立てていく。
これが――自分も含め、きっと誰もが望んでいることだろう。
しかし、不毛の世界で社会に価値は無く、生きる、死ぬ、どちらか二つの選択に追いつめられた生存競争が激化していくだけである。
 何度も夢を抱いては捨て、人の生死の狭間で立ちすくむ……。
 所詮、自分も銃を人へ向けたことを思い出し、思ったり考えたりするだけでは何も始まらない現実を知る。振り返れば父の教訓が最もかもしれない、『奪い合い』こそが最善の生き方を語っている。
 しかし、
 奪い尽くしてしまったらどうするのだろうか?
 狙う敵もいない世界へと変わったら、そこはきっと生物としての生存を果たすべく、仲間をも殺し、目の前の相手から全てを奪い去るだけ。
 もはや、考える思考回路は使わず、食べるだけの本能で動き回る野生の生き物と化してしまうだろう。
 その後は滅び去る結末――。
死へとたどり着く混沌の螺旋へ堕ちながら、絶望にひれ伏す地面は凍てつき、紅き痕は癒えることなく、時の感覚さえ失い今を飽食する……。
 ほんの一瞬だけ、何も見えず遠近感さえつかめない真っ暗闇に放置された自分が脳裏に映り、ルビアは喉が締め付けられるような息とともに目覚めた。
ぜえぜえと息を切らしながら胸をおさえ、激しい心臓の鼓動を感じる。全身汗びっしょりになって、上着を一枚脱いで涼しい格好になる。
深く深呼吸しながら、目に見える光景が本当に真っ暗闇の中へ飲み込まれていないことを確認し、ほっと安心した気持ちで大きく一息吹いた。
 辺りを見回すと、近くにディンとデビットの姿はない。手入れの終わった銃だけが綺麗に立てて並べてあるだけだ。
何かの攻撃によってか、ビルのぽっかり空いた壁から見える夕日が差し込み、輝かしい橙色の光が瞳を射る。
深い赤褐色のガーネットの様な目を細くして空を眺めると、紺色にかけて青紫色へ変化していく美しい夕方の世界が広がっている。
 息も飲む大空の優雅さは、ルビア自身の心の憂鬱感を見せてくれているようで、彼は瞬きもしないで空にひたった。
 母の次に優しい空を見つめながら、これ以上時間が流れてほしくないと願った。  目には空以外何もうつらなくなり、呆然とひたる姿は魂の抜け殻のように動かず、空虚に息すら忘れてしまったかのようだ。
 だが安息の空間と時は長くはなかった。
 身も解放されたような時間を切ったのは、早朝から戦闘のあった敵陣のビルからの銃声。時間を置いては連続的に鳴り響く雑音に反応し、ルビアはとっさにビルを覗いた。
 向こうに見えたのは敵の銃火から逃げ惑うライトだった。曲がり角に隠れては何かを抱えながら応戦している。敵は二人で、茶と黒の見慣れた自動小銃――AK47を装備している。ライトはそれよりも旧式のライフルで、ルビアが使っているライフルと同じ物だった。これは、そう――勝ち目のない殺し合いだ。
 瞬き数回と冷静な呼吸一回で状況を簡単に再確認し、機関銃に弾の詰め込まれた丸いドラム型の弾倉をセットしてからすぐ弾を送り込んだ。
それを両手で持ち、心臓の鼓動が爆発する圧迫感をおさえながら、父の救出へ向かう。
 『親子として救う』という気はそれほどないが、『仲間として救う』心構えならある。
颯爽と階段を下りながら一階までたどり着くと、外や敵陣のビルから敵がこっちを向いていないかキョロキョロと見回し、それから一目散に敵陣のビルへ突入した。激しい銃撃という音楽の止まない空間へ――。

 散々と薬莢の落ちている階段を上がり、銃声の響く通路まであと少し。
 敵の気配が近くなるほどに足音を隠し、つま先立ちで優しく一歩一歩を進み行く。
 薄らと灰色の煙がすぐ目前を横切ると、銃尾を脇にはさんで引き金に指をかける。口から呼吸はせず、鼻で小さく空気を吸っては嗅覚で気配を確かめる。人間の汗臭さを探るのだ。
 そっと片目だけ曲がり角から出し、どんな状況になっているか一瞬だけ見ると、さっきと変わらず敵が二人いるだけだ。
 一人が弾切れになったところを狙い、直ぐさま強襲すれば勝ち目はある。
 いざその一歩を踏み出そうとしたとき、ルビアは自分自身に取り巻いたルールを振り返ってしまった。
 父を殺そうとしている二人を殺せば父は助かる。だが敵の二人は死ぬ。
 何を救えば良くて、何を殺せば良いのか、不意に戸惑いが壁となった。
 次に父の教訓が頭へ突き刺ささり、殺して奪い去ってしまえばいい衝動にからまれる。
 しかし、こう考えていても事態は重苦しくなるばかりだ。
時間の経過が長かったせいか、気がつけば銃声がさっきより遠ざかっていた。
ふとした耳に失敗を覚えるが、今はもう悔やみなど必要は無い。
一旦深呼吸してから気を落ちつかせ、肩の力をぬいてから走り出す。
 廊下を駆け、次の曲がり角を行って目にした光景は――終焉を飾られる寸前のライトだった。
 敵が彼に銃口を向けられる前に、ルビアは迷わず引き金を力強く引いた。
 敵が背後の銃声に反応しルビアを殺そうとするが、機関銃から放たれる無数の弾丸は彼らの身を撃っていた。
 乱れ出る薬莢、断続する銃火、死神という弾丸、痕からしたたれる血、うずくまりながら死体へ変わる二人の人間……。
 わずか数秒の間に、またこの街の人口が二人も減った。
 機関銃をその場におろすと、全身の力がほどけながら、膝をついて座り込む…。
その時になっては、父を救った達成感や殺しをやり遂げた感覚などはなく、彼の中では単純に、「目の前の二人は死んでしまった……。」としか思っていない。
 父親に目などくれてはいない、二つの死体を絶望的に見つめているだけだ。
 父を救う目的だったはずが、この瞬間となってはそんなことは忘れている。死に対して考えることなど、何も価値がないと解ったのだ。
 死への一直線、行き止まりも阻むモノもない綺麗な直線上に立ち。そこを歩いたり、時には走ったりする。そして自分の意志に反して、走らされることもある。
 さらに、この世界では人類の絶滅という最期の《死》が直線の先にある。
 死に関する概念など、とうに死んでいる。
 そこで、自分のルールと照らし合わせてみるのだ。
 『この世の命は全て平等』で、それらは確実に死へ進む。だが互いの行動によって乱される。
 結果として、人間の勝手な行為により、生きるも死ぬも単純化されるのだ。
 今さっき、もう物となってしまった二人を殺したように……。そして、父を人工の死から救ったように……。
 極端に伸び縮みする直線を、魂は歩んでいる。
ガラス玉みたいな眼になってしまっているルビアへライトはゆっくり近寄るが、ルビアは見向きさえせず、座り込んだ状態を続けている。
「おい、お前。だいじょうぶか?」
ライトがどんなに彼の前を動こうが、ルビアは身動きすらしない。
 彼は彼なりに死を理解し始める。
 死というのは――生きることだと。
 死ぬ以前に、人や生き物は皆生きている。
 生きている時間に限界はある、だが死に限界はない。永遠に死んだままだからだ。
 死んだらそこで全てが終わる。過去にも未来にも同じ終末なのだ。
 これが真実であり、全てなのだと解ったルビアは――静かに立ち上がった。
「ルビア……助けてもらってすまねーけど、なんかお前、変だぞ。」
彼は父親の言葉を無視し、来た道を戻りにのそのそと歩いていく。
「おい!」
ライトが呼んでも、振り向かずに一定のリズムで歩く背中は、廃墟の壁につり下げられたボロボロの布切れの様だ。
 ライトはその場に立ったまま、息子の背中を深々と見守った。ルビアが曲がり角を行ってから、二人の死体を見つめた。
ライトは息子の複雑な感情を考え始めた……。



     ***



 仲間が全員集まる頃にはもう夕日が落ち、満月が空を支配していた。
屋上から暗黒の彼方に浮かぶ宝石を眺めながら、ルビアは何も考えなくなっていた。
下の階では、小さなランプを囲いながら、他の四人は少ない食事に一生懸命だが、一人だけあり得ないぐらいに食欲が無い。
 そんなルビアを放っておきながら、四人は今晩の分の食料をたいらげてしまった。
空いた缶詰を並べながら、一服している時だ。
「メシも終わったところだ、アレを見せるか……。」
突然、ライトが三人の前に見せた物は一枚の地図だ。あまり空気に触れていなかったようで、新鮮な白い紙と、際立ったインクがよく見え、よく読める。
「ヒゲボスよ、宝探しでも趣味になったのか?」
デビットがライトの顔を面白半分で見ながら笑ったが、ライトはそんな冗談を気にせずに話しを進めていく。
「コイツはこのクズ街の地下の地図だ。このボスの推測ってやつだが、長い通路のどっかに秘密のドアがあるみたいだ。ここに何があるか探してみたくないか?」
 それを聞くと、三人は楽しそうに賛成した。
「ボス、俺はそこそこいい話しだと、思う。そこそこな…。」
 その時、ディンの落ちついた口調にこもる思いは、この宝探しにも似た冒険には、少々危険があるかもしれない。そういう予測がある。
 だがライトは、生活が良くなる可能性を期待しながら、地図に想いを寄せている。
「では皆さん、ここは宝探しに行くかどうか決めなくてはいけませんね。」
 愉快な雰囲気になったところで、ビショップが話題の指揮をとる。
「俺は面白そうだからいきてーな。」
 デビットは軽薄にすぐ答えた。
「俺は……ボスに任せる。」
 ディンは腕組みながらまた口を閉ざした。
「俺が地図を見つけたんだ、もちろん行くぜ。――少し、待っててくれ。」
 ここの生活で、唯一の楽しみである食事さえしない息子を気にかけたライトは、彼の所へ行ってこの宝探しについて聞いてみることにした。




 屋上へ行くと、孤独と闇に紛れるルビアの姿がある。岩の様に固まって全く動く気配がない。
「なぁ、ルビア。この街の地下で、宝探しでもしてみねーか?」
作ったような笑みで話しかけても、ルビアは口さえ開こうとしない。
「聞いてくれ、こいつはチャンスかもしれないんだ。」
「――それが一体、どんなチャンスになるんだ?」
 何も返事をしないと思っていた息子が急に喋りだし、ライトは息を飲んだ。
「なんのチャンスってのは………生き抜くためのチャンスだ。この地下地図に俺は期待してるんだ――。」
 ルビアは静かに父親の方を向いた。冷たい眼には漆黒の闇夜がうつっている。父のいる方を向いた。と言うよりも、単に首を曲げてみただけかもしれない。
「…なにが生きぬくためのチャンスだ。どうせ俺たちは死ぬ定めに突き動かされている。こんな世界じゃ、生きる意味も無いんだよ。
 何も変わらない、奇跡も希望も無い。いまさら何したって――」
 絶望しかないと定義する《答え》を、父親の持つ期待との狭間へ投げつけた。
 それでも、ライトは期待を捨てる姿勢はない。
「ああ、そうだ。お前のいうことはあってる……。でもな、俺はお前や仲間、新しい発見を信じずにはいられないんだ。それに付け加えて、母さんとの誓いを破る訳にはいかない。お前を絶対死なせないっていう誓いだ。
 覚えてるだろ―――母さんが死んだ日を……。あの日の前から、母さんは自分が死ぬのを知っていたんだ。最後の夜に俺は約束した。お前を守り抜いて、必ず立派な人として育て上げるんだって! だから…何がなんでも、お前を一緒に連れて行くぞ………。お前を、独りにはしておけないんだ。」
 妻との約束を背負った《答え》を息子にぶつけ、無理矢理にでも思いを押し通す。
 ルビアの頭いっぱいに母の姿が映り、父の言う誓いがゆるぎないものだと考えた。
「わかったよ、一緒に行けばいいんだろ……。」
「ああ、それだけでいい。」
 ライトはこれ以上話しを続けない方が無難だと思い、階段へ去る。
 彼の息子は星空を憂鬱そうに眺めたまま、またピクリとも動かなくなった。
冷たい夜の風にさらされながらも、風にあたっている感覚さえ失っている。満月のかすかな明かりだけ感じ、心を無に浸す。
 その時の心情は、生きていない――。



「とりあえず、オーケーだとさ。」
ため息混じりの声と共に戻ってきたライトに、仲間は元気そうに「おかえり」と言った。
 ライトは息子と何があったかは話さず、穴のあきそうな大きなリュックを持って皆へ呼びかけた。
「お前ら、早速支度を始めるぞ。ビショップは俺と食料庫に来い。ディンとデビットは銃を整理してラックの中に収めておいてくれ。」
 地図へ希望や前向きな未来を望みながら、ライトはビショップと共に階段を下りていった。



「ルビア君、どうしたんでしょうかね?」
 腹を満たした元気そうな声で聞いても、ライトは黙して語らずだ。
食料庫の前まで来ると、扉を開けて小さな懐中電灯で中を照らし、食料が盗まれていないかどうか確認した。食事の間に誰かが忍び込むかもしれないので、毎日必ず点検しているのだ。
日常の仕事でも、この時ばかりは雰囲気が重い。
ルビアに何があったのかをビショップが知りたくても、ライトは単なる音にも似た声すら出さない。ライトが食料を運び出そうとしても、ビショップはピクリとも行動に出ない。
「ビショップ、お前まで止まるな。」
黙々と仕事をこなすライトだが、言い放った言葉には、いつもの厳しさとは違いがあった。
「ルビア君となにがあったのか、教えてくれませんか…。」
振り向きもせずに、食料庫の暗闇の中でライトも止まってしまった。
「俺と息子のことは……放っておいてくれ。――――あいつは妙な考え方に取り憑かれちまったんだ。少し、静かにさせといてやれ。」
 二人の親子の事情に関して―――今は優しく見守ろうと決意し、ビショップも黙々とライトの手伝いを始めた。





 屋上ではさっきと変わらず、暗黒の廃墟と同化するルビアがいる。
 満月の晴れた夜空。午前中にあった雨雲は遠ざかり期待はずれの日だった。それよりも、今晩はいつもの夜とは打って変わって物静かだ。銃声も悲鳴も聞こえない。今は風もおさまり音という音は聞こえない。
 自然界もこの街も沈黙におちて、満月だけが麗しく魔性に漂う。
月夜を瞳に映しながらよこになり、静寂と月光に包まれながら、固いコンクリートの上で寝静まる。








 こうしてやっと、彼らの一日の騒動は終わろうとしている。
 今晩は無いが、いつもならどこかで、また誰かが今も死闘を繰り広げている。
 停止することのない銃声、空気に入り浸る火薬の煙、誰かが死んでは腐乱する死臭。


 死の枠へはめられた者達が、明日も死へ立ち向う。











        《後書き》



 こんにちは、もしくはこんばんは。灰華です。
 二作目の短編・・・ではない、実は長編予定作品。
 今回の投稿は長編の一章のみ、理由はまだ二章の途中までしか実はできていない;;
 あえて何も手をつけずに、純粋な文章にタグだけいれたのですが、多分一文が長過ぎて読みずらそうだなぁ・・・(と、内心で思っているだけで他人事(マテお前



 前回は戦後で今度も戦後だけど、廃墟でまだ戦っている舞台設定。関連性は無し
 主人公のルビア君は19歳の設定、親父のライトさんは50近い設定です。

 とても鬱っぽく、哲学っぽい気難しい内容だったり・・・。そのため一言一言にこだわっているつもりです。だから二章も中途半端で止まってr(言い訳かよっ
 わかりやすく受け入れてもらうために、わざわざ訳の分からない言葉は使ってません。むしろ、使えまs(駄目な奴は何をやっても駄目

 ぶっちゃけさ、後書きってさ、ナニ書くの?(ぇ
 ごめん、こんな灰華です    orz


 ではこれにて。





 *感想につきましては掲示板にてよろしくお願いします*


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