都会の喧騒に巻き込まれないで、時間が止まっているかのように感じる街―――
向居町は、5年前と変わりはなかった。
商店街には巨大なチェーン店が立ち並び、
小さな本屋は系列の巨大な本屋になっていたが、

ゴーン、ゴーン。

向居山の山頂にある学校から響く、小気味良い鐘の音だけは、何も変わっていない。
4月から始まる新しい学校での新学期。新環境での生活。
そこに思いを馳せながら―――

桜散る季節に、恋と友情の祝福を―――


つい昨日、引っ越しが終わってなつかしい家にやってきた。
前に住んでたところよりはずっと田舎町だし、時が経てば当然――家がふるいふるい。
でも、ここはたくさん花も咲いてるし、夜はよく星を覗けるし、
星好きの俺にはとっても理想な場所だ。
そんな星に熱心な俺こと七星 昴は、結構遠い都会から引っ越してきた十八歳、
久々の故郷はいいねー! 四月、春の息吹を感じさせるあたたかい風が、昴の耳元をかすめていく。
転校してきた学園を前に、昴はついクセを吐く。
「高校とはちがって学園とは聞いたけど、あんま変わりないんじゃないの?」
風が強い。背中をふわっと押したそのとき――
「あ、ごめーん! あれれ? 先輩?」
昴の背中を容赦なく押したのは風でなく、一人の女だった。
しかも、
「あ、お前は! 水無月 このえ……だったよな?」
「そうだよー 水無月 このえだよ。覚えてくれてたんだね先輩。」
「いや、まぁな。後輩の顔ぐらい忘れないってば。」
そうと聞くと昴の腕に抱きつく水無月、昴、動揺を隠しきれない様子で、ふっと目が合う。
「やだー もー 先輩先輩ー!」
次は昴を座布団かなにかのようにバンバン叩き始める。
「い、いてっ! ちょっ! 水無月っ!」
かわいい表情に付いた腕の力は、並々ならぬ力で昴を弱らせていく。
「わかったっ わかったから! ホラ、もう学校の時間だろ?」
そういうと、昴から離れて学編へ走り出す水無月。
「せんぱ〜い 遅刻しちゃうよ? いいのー?」
「あ、お前! 久方ぶりでも、とことんあのテンポかよぉ……」
さらに後ろから、
「WAWAWA忘れ物〜!」
またしても背中をどつかれる昴。
その場で転んで地面と顔がひっつく。
「ひょっとしてミステリーサークルでも発見したの? ぁ、でも今はそれより遅刻厳守ー!」
「それを言うなら、時間厳守だろうが……い、痛い……」
登校初日から、痛い目ばかりに遭う昴であった。


〜校舎内〜


教室。
「それじゃ、新入生紹介するぞー」
先生のやる気のなさそーでありそーな微妙な声を聞きながら、俺はそのドアを開けてみる。
「七星 昴クンです!
 みんなしっかり友達になって、喧嘩でもなんでもデキちゃうようになれよー!
 ただし恋愛関係になるのだけは許さん!
 ってか俺より先に彼女作るんじゃねぇぞ七星。わかったなー?」
(ハ? ナニソレ?なんやねんこのセンセー! このテンテーはバカじゃねーのか?)
「あの、先生! 俺はそんなっ」
「つべこべ言うなー! どーんと濃く来い!」
「……いえ、なんでもないです。ハイ」
しょんぼり。も、いいところ。
そしてようやく――席についた昴の右には幼なじみの宮倉 弥遡。
五年前とはちがってかなり派手になった姿がよく見栄えとして目に映る。
「五年ぶりだね。」
「本当に久しぶりねー 向こうでは女つくったの?」
「いや、そのはなしは今いいよ。っていうか、困るなぁ」
所変わって左にも幼なじみの環咲 炎良、このクラスで一番気が合う仲でもある。
久しぶりの再会に声をかけてみる――
「お前の姉さん、ここの保険室の先生だって? すげーじゃん」
が、ここでブロックワードにクリティカルヒット。
炎良はその単語一つで一撃必殺を食らった勢い並みに……
「ひぃぃぃぃぃぃ! やめてくれ! 頼む! 俺はもう人間辞めるんだ!
 だから、もう嫌だぁ……!」
目も当てられぬ人――とはこのことか、いきなり机をたたき出し、炎良は立ち上がり、握りこぶしを掲げ、
「俺は! 人間辞めてやるんだ!」
「ハィハィワロスワロス、授業中なんだからすわりなさい」
教師、何の意図もスルーに等しい。だが順調に授業は進んでいる……。
そして後ろには、今朝背中を二度目にどついた謎の女。
桜塚 凪。オカルト部長をやっているらしく、そもそも部活なのかどうか気になる存在である。
教科書ではなく、なにか別な雑誌かなにかを開いて読んでいる。
横には分厚い事典まである。
「あのー 桜塚さん」
ふと声をかけたが、見向きもしない桜塚――
「あのー」
と、そこで、
「アララんごめんね〜 ちょっとお勉強中だったのネ」
「勉強って、なんの?」
「男のパンツの柄を当てる方法……なんちゃってね〜」
(聞いてるこっちが恥ずかしいぐらいだ……)
前方には園原 司。
見た目は多少陰気だが勉強はできるほうだ。
授業は寝るか遊ぶか絵を描いてるか、この三つだけをする。
オカルト部……らしい。
昴(えっと、あの本は?何?心理学? アイツはどんな神経してるんだよ!
それにしても難しそうだなー 流石天才、なのか? まぁ、それだけはあるよな。
それにしても、よく見ると鞄のなかにはPS○にお弁当にマヨネーズに、パソコン雑誌……
なんかハッ…なんとかって書いてるな。
ゲームはギルテ○ギアとモンハンか、あぁ、あれか。向こうで友人がよくやってたなぁ。
ぶっヴォルカ〜とか言いながらっ。それより俺は連ザだけどな)
右の二つ目の席には生徒会長の藍野 眞子。
見た目はそれこそ誰もが理想とする生徒会長そのものである。
大人しくも強気のある、凛とした女子。
なかなか話す場面の無い相手ではあるが、その風貌はどの女子よりも落ち着いていて和みがある。


〜昼休み〜


シ○ソ○の「君は○に似ている」がチャイムの直後に始まる。
だが、しかし……

♪君のすがたも〜 ゾ○に似ている〜 静かに動いている〜 放置されたまま〜
 僕はいつまで〜 頑張ればイイの〜? きっと〜 ア○シュと組めば勝機がみえてく〜るよ〜

なにか歌詞のおかしさに誰も気付いてはいない。
普通に食事をし、普通に時間がすぎているだけじゃないか。
この学校は異様だ。なにかがおかしいのではないだろううか。
教師といい、生徒といい、昼の放送といい……。
昴は自然とあらゆることへ疑問を感じていた。
五年前、たしかに自分はこの田舎に住んでいた。
だが、この学園の存在をよくは知らなかった。
そもそも、このような田舎に学園などという名前がつく学校があることが妙なのだ。
「先輩先輩先輩ー!」
とっさの不意を付くのは水無月。
「ごはんも食べずにドコいくんですかー? ムラムラしすぎてトイレでお一人なんですか〜?」
「違うってば、ちょっとケガが痛いから保健室に行くんだよ」
「なーんだ保健室ですかぁ」
そこへ、二人の横から現れたのは生徒会長の――
「藍野 眞子せんぱい〜 昴先輩が一人で保健室にいくんですってー。
保健室ですよ! ほ・け・ん・し・つぅ! 狭くて白いベッドがあるんですよぉ」
「あの、ゴメン。どうにか水無月を止めてやってくれないかな……」
すると藍野は、
「ほらこのえちゃん。昴君が言ってるんだから、言うこと聞かなきゃダメだよ」
「は〜い!」
すんなりと水無月を抑え、藍野に「ありがとう。悪いな」と一言かけてから昴は保健室へ。

朝、顔面から派手な転び方をしたせいか、ヒザがひどい。
二回ノックし、礼儀正しく保健室の白いドアを開けようとしたその瞬間だ。
かすかに開いたそこからはなにやら煙のながれる線が、ふわふわと鼻を突く。
(この臭いは……ゲ、クサぃ。まさかタバコか!?)
がばっと腕を押した先には――
「あら、いらっしゃい。やらないか?」
確かに女性の声なのだが。なんとも、その……。
「ええっと、あの、タバコはその、悪いと思いますよ。灰華先生……(まず先生って呼べるのかこの人!?)」
「へー 君が転入生の昴君かぁ、都会だからって聞いたけど……以外と普通じゃない。
がっかりさせちゃってさぁ。
これからジックリ、アナタのこと変えてあげようかと思ってるんだけど、いいかな?」
なんのことだかさっぱりわからず、思わず――
「お、俺はタバコとかはしませんよ! 酒ならちょっとはいいけど……(ぁ、やべ。言っちまった)」
「そういうのはどうでもいいの。
これでも先生ね、暴走族とかヤクザとか、物騒なのよりはずっと強いからね?」
「ああ、あ、あはぃ……で、怪我のほうは――」
「そうね、結構ヒドい擦り傷ね。コンなになるまでこすりあっちゃったの?
治すのは間接的がいい?」
…………
(こ、この先生危ないって。ア○ゾンのレビューで見た☆数が零よりヤバいって!
今すぐ逃げなきゃ!)
「も、もういいです! ああ、ア、ありがとうございました!!!」
つい全力で逃げ出す昴。その後ろ姿を虎の目のように見つめるのは灰華であった。
「あの子、イジリがいあるわねぇ……」


〜放課後〜


初日の授業も終わり、五年ぶりの感覚は全く取り戻せていない昴。
「やれやれ、妙な一日だったなぁ……。なんだかまだ背中辺りが痛いし」
玄関にある下駄箱へ向かい、靴をおもむろに手に取ったそこには――
「ん? 手紙……」
(いや、まさか五年ぶりに来てソッコーラブレター!? いや、んな訳無いよな……)
一般的に普及してる白い封の中をのぞくと、白い紙が一枚。
書いている内容は……

探してください ここの秘密を
見つけてください もう長くて古いことを
必ず 探してください
見つけてください あなたがまたここへ再来した意味を知ってください
必ず あなたなら見つけられる はず


「こ、これは宝探しでもしろってことか? ていうか、最後の『はず』ってテキトーだなぁ……」
そして、これから昴の人生を大きく変えようとすることが始めるのであった。



おしまい(笑


続き? ェ、ナニソレ? 美味しいの?


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